入賞者インタビュー:埼玉大学 原田先生

進化計算コンペティション 2022 〜群集シミュレーションを用いた発生交通量推定への挑戦〜

公開日:

OptHub 編集部

対象コンペ: 進化計算コンペティション 2022
受賞: 多目的部門 1 位
所属: 埼玉大学

入賞者インタビュー:埼玉大学 原田先生

コンペ概要:群集シミュレーションを用いた発生交通量推定とは?

進化計算コンペティションは、産業界の実課題をテーマに、最適化手法の実力を競い合う大会です。2022 年の課題のひとつは、群集シミュレーションを用いて、あるエリアの発生交通量を時系列的に再現・推定するという非常に複雑な問題でした。限られた観測データと強い制約条件のもと、シミュレーションとの整合性を保ちながら、目的関数の最大化を図るというチャレンジングなテーマでした。

参加のきっかけと背景

今回インタビューにご協力いただいたのは、埼玉大学の准教授であり、進化計算の中でも「並列化」「サロゲートモデル」「多目的最適化」を専門とされている原田先生です。過去の進化計算コンペには、都合がつかなかった 2023 年を除き、すべて参加されています。

アプローチと試行錯誤

問題を見た第一印象

今回の問題は、単目的部門と多目的部門が全く異なる問題として設計されていた点に注目されたそうです。従来は、単目的では複数の評価指標を加重平均した関数、多目的では個別の指標を別々に最適化する構成でしたが、今回は設計自体が大きく異なっており、「交叉や突然変異などの基本的な手法も部門ごとに作り直す必要がある」と直感したとのことです。

単目的部門での取り組み

まず単目的部門から着手。解表現について、離散と連続のどちらにするかを検討した結果、進化計算で扱いやすい連続値表現を選択。具体的には、行動パターンごとに 2 つの正規分布をもつ混合正規分布で表現し、大まかな構造を捉える形としました。その後、分布の値を変化させることで試行錯誤を重ね、ローカルサーチによる微調整も行い、精度向上に努めました。

多目的部門での取り組み

一方の多目的部門では、目的関数が「ヒストグラム推定精度の最大化」と「観測コスト(カメラ台数・観測間隔)の最小化」という相反する指標となっていました。

まずは極端な設定から出発し、ヒストグラム精度の最大化には「カメラ台数最大・観測間隔最小」が有利であること、逆に観測コスト最小化には「カメラ 1 台・観測間隔最大」が理想であると仮定しました。そのうえで、NSGA-II を用いてハイパーボリュームの最大化を目指しました。

さらに、評価回数が限られているという制約を考慮し、「過去に生成された近傍解を回避する」アーカイブベースの探索を導入するなど、進化計算の工夫を随所に取り入れました。

コンペを通して得られた学びと考察

残された課題と研究の視点

今回原田先生は多目的部門で 1 位を獲得されましたが、「もっと良い手法があったのではないか」と、研究者の視点からさらなる改良の余地を感じたとのこと。特に専門であるサロゲートモデルの活用も検討したかったと語ってくれました。

実問題とベンチマークの違い

ベンチマーク問題では問題設定が固定されており、定式化を見直す必要がない一方、実問題では「一度解いてみて、定式化そのものを再検討する」というプロセスが重要になります。

実際、原田先生は担当授業でも「最適化すべき点を自ら発見し、設計変数・目的関数・制約を定義する」という作問体験を学生に課しており、実問題への対応力を養う教育にも力を入れています。

参加者の発表での気付き

プレゼン発表では、単目的部門 1 位の手法として「補間曲線の制御点の最適化」が用いられていた点に注目。原田先生は「正規分布による表現が必ずしも最適ではなかったかもしれない」と振り返り、実問題では解表現自体が性能に大きく影響することをあらためて実感したと語ってくれました。

最適化への思いと未来の展望

原田先生は、進化計算の可能性について次のように語ってくれました。

生成 AI や機械学習に比べて、進化計算はまだまだ知名度が低い。けれど、実際には進化計算を使えば解ける問題は社会の中に山ほどある。例えば新幹線の形状最適化のように、現実の課題に対して進化計算が有効に働く場面は多いのに、その存在が知られていないがゆえに活用されていないケースも多い。

だからこそ、教育や研究を通じて、進化計算という選択肢を広く社会に知ってもらいたいと考えているという。

未来の参加者へ

特に実問題を解く機会は非常に貴重で、最適化における本質的な面白さを体験できる。ベンチマークでは考えないような難しさに直面できるのも実問題ならではだ。だからゲーム感覚でも構わないので、一度は実問題に触れてみてほしい。自分の研究の腕試しにもなるし、新しい知見にもつながる。

実際、インフラ面も以前と比べてかなり整備されていて、回答の送信なども非常に楽になっている。社会的な意義を感じながら、自分の力を試す場として、こうしたコンペティションをもっと多くの人に活用してもらえたらと感じている。

編集後記

進化計算を専門とする研究者として、研究と実課題の両面に精通する原田先生。単なる技術的工夫にとどまらず、問題の構造理解から定式化、教育への応用まで、一貫した思考と姿勢が印象的でした。解表現や探索方策の選び方といった細部に至るまで、研究と実践の往復によって洗練されたアプローチが随所に見られました。

実問題への関心と、社会における進化計算の価値の発信という視点を持ちながら、今後も多くの課題に挑み続ける原田先生のご活躍に期待が高まります。

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