入賞者インタビュー:富士通研究所 苗村さん

進化計算コンペティション 2022 〜群集シミュレーションを用いた発生交通量推定への挑戦〜

公開日:

OptHub 編集部

対象コンペ: 進化計算コンペティション 2022
所属: 富士通研究所

入賞者インタビュー:富士通研究所 苗村さん

コンペ概要:群集シミュレーションを用いた発生交通量推定とは?

進化計算コンペティションは、産業界の実課題をテーマに、最適化手法の実力を競い合う大会です。2022 年の課題のひとつは、群集シミュレーションを用いて、あるエリアの発生交通量を時系列的に再現・推定するという非常に複雑な問題でした。限られた観測データと強い制約条件のもと、シミュレーションとの整合性を保ちながら、目的関数の最大化を図るというチャレンジングなテーマでした。

参加のきっかけと背景

今回インタビューにご協力いただいたのは、富士通研究所に所属する研究者であり、現在は進化計算コンペティションの運営にも携わっている苗村さんです。現在はベイズ最適化や組合せ最適化に関するソルバーの開発に取り組んでおり、長年にわたって最適化技術に関わってきました。

学生時代から連続変数の最適化に関する研究を行っており、特に航空機の設計を対象にベイズ最適化を用いたアプローチに取り組んでいたそうです。今回のコンペも、そうした専門性を活かせる機会として参加されました。

アプローチと試行錯誤

問題に初めて触れたとき、苗村さんは、入力に対する出力の変化が非常に複雑で予測困難な振る舞いを示すことに驚いたそうです。練習問題で出発人数を少し変えた際、到着人数の分布が大きく変化することを確認し、繊細な調整が求められる課題であることを実感しました。

当初は、混合正規分布を用いて出発人数の分布を表現しようと試みたものの、思うような結果が得られず、途中で方針を変更。より自由度の高い離散値の最適化に切り替えることにしました。

着目したのは、ある時点での人の流れが、それ以降には影響を与える一方で、それ以前には影響しないという時間構造の非対称性。この特性を利用し、早い時点から順に出発人数を決定するアプローチを選びました。

また、出発人数の合計値が制約として決まっていたため、累積度数分布で人数を表現することで、この制約を自然に満たす形に設計しました。最初に取り組んだのは、全体の分布の概形を定めることでした。

その後は、以下のような段階的な工夫を重ねていきました:

  1. 全体の概形を定めるため、300 点中 11 点を選定し、それらの累積度数分布の勾配をベイズ最適化で調整(間は区分的三次エルミート補間で補完)
  2. 制御点を 11 点から 31 点に増やし、遺伝的アルゴリズム(GA)によって微調整を実施
  3. 31 点の制御点を、早い時点から順に一つずつベイズ最適化し、評価の際には制御点より時間的に離れた誤差に対する重みを小さくする工夫を導入
  4. 工程 3 を 4 回繰り返すことで、解の精度を徐々に改善

このように、ベイズ最適化と進化的手法を組み合わせることで、解の探索効率と表現の柔軟性を両立させる工夫が随所に見られました。

コンペを通して得られた学び

苗村さんにとって印象的だったのは、あらかじめ想定された一般的な手順でベイズ最適化を使うのではなく、課題に合わせて柔軟に応用した経験でした。学生時代は、典型的な問題に対してベイズ最適化を用いる機会が多かったものの、今回のように実課題に即して工夫したことで、活用の幅が広がる実感が得られたそうです。

また、問題の構造や定式化の工夫について深く考える中で、自分が作問する立場だったらどう定式化するか、という視点も生まれたとのこと。最適化問題における定式化の重要性と難しさを、あらためて認識する機会となりました。

さらに、産業界と学術界における最適化問題の性質の違いにも触れ、次のように話してくれました。産業界では個々の問題に特化した手法が効果を発揮することが多く、これまでのコンペティションでは、参加者はこのような特化手法を作り上げてきた。一方、学術界では汎用性の高いアルゴリズムが求められ、産業界でも最適化の初手としては汎用的な手法を使うことが多い。だからこそ、産業界の実問題に対して汎用的に利用できるアルゴリズムの開発を促すような、新しい問題クラスを発見・提供していくことが、進化計算コンペティションの大きな意義であると考えているそうです。

最適化への思いと未来の展望

今後の最適化の展望として、苗村さんは「説明可能性」の重要性に注目しています。特に設計最適化の分野では、制約条件に盛り込むことが難しい確認項目も多く、単に最適なパラメータを求めるだけでなく、どのような理由でその解が最適であるのかを説明できる必要があると考えています。

未来の参加者へ

最後に、これから参加を検討している方に向けて、苗村さんからメッセージをいただきました。

楽しむことが一番。遊びがてら入って、気分が乗ったら優勝を目指してほしいです。チュートリアルをしっかり解いて、問題特性を理解することが順位につながります。問題を自分の得意分野に持ち込んで勝負したり、勉強を兼ねて初見の方法にチャレンジしたり、さまざまなアプローチを見せてほしいと思います。

編集後記

研究と実務、理論と応用を行き来しながら、創造的な発想で課題に取り組んだ苗村さん。今回のコンペでは、柔軟な発想と確かな技術に基づいた工夫が随所に見られました。今後は、産業界と学術界をつなぐ新たな問題発見に取り組みながら、最適化の応用と発展をリードしていく存在として、さらなる活躍が期待されます。

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