主催者インタビュー:日立製作所 小平さん
進化計算コンペティション 2019 〜積み上げ式設計を越えた風車の全体最適化〜
公開日:
OptHub 編集部

2019年に開催された数理最適化コンペティションの主催者にインタビューを行い、コンペティション開催の背景や目的、直面した課題、そして得られた成果について詳しくお話を伺いました。
コンペティション開催の動機
小平さんは、当時所属していた会社での経験から、風車設計における課題に直面していました。その背景について、次のように語っています。
当時、世の中で主流だった風車は出力5MW程度でしたが、会社では10MWを超えるような大型風車の設計を目指していました。しかし、そのような大型風車の設計に適したツールやアルゴリズムは存在せず、既存のツールでは対応が難しい状況でした。
さらに、従来の設計手法の問題点についても言及しました。
従来の風車設計は、羽根、タワー、発電機などの部品ごとに最適化を行う「積み上げ式」の設計手法が一般的でした。しかし、この手法では、個々の部品は最適化できても、風車全体としての性能や経済性を最大化することは困難でした。また、従来の設計手法では、風車全体の経済性を正確に評価することが難しく、設計の妥当性を判断する明確な指標がありませんでした。
これらの課題を解決するために、主催者はコンペティションの開催を決意しました。
風車設計の最適化をテーマとしたコンペティションを開催することで、風車設計の専門家だけでなく、数理最適化の専門家からも知恵を借りることができると考えました。新しい設計概念の確立と、より高性能で経済的な風車の開発を目指しました
コンペの問題設定
コンペでは、風力発電用風車の全体設計の最適化が課題として設定されました。主催者は、問題設定の重要なポイントについて次のように説明しています。
経済性、全体最適化、従来手法の克服という3つの点を重視しました。具体的には、風車の発電コストを最小化するように設計パラメータを最適化すること、羽根、タワー、発電機など、風車を構成する要素を考慮した全体最適化を行うこと、そして従来の積み上げ式の設計手法では実現が難しかった、全体最適化による経済性向上を実現することを目指しました。
コンペ開催における課題
コンペ開催にあたっては、様々な課題に直面したと主催者は語ります。
環境構築、評価方法、非現実的な解、評価指標の設計など、多くの課題がありました。特に、当時のコンペ形式は、参加者が各自の環境で最適化ツールを実行し、その結果を提出する形式でした。そのため、参加者それぞれの環境でツールが正しく動作するかという不安を抱えていました。
評価方法についても課題があったそうです。
当時は、クラウド上でコードを実行し、自動的に評価を行う仕組みが一般的ではありませんでした。そのため、提出された結果を手作業で確認し、評価する必要があり、これは主催者にとって大きな負担となるだけでなく、評価の公平性を保つことも難しいという課題がありました。
さらに、具体的に直面した課題について、主催者は次のように説明しました。
参照点問題、独立試行回数、ばらつきの考慮など、評価の公平性に関わる様々な課題がありました。例えば、多目的最適化問題では、パレート解を求める際に参照点の設定が必要となりますが、どの参加者の解を参照点とするかによって、他の参加者の評価が大きく変わってしまうため、公平な評価を行うことが難しいという問題がありました。
コンペ開催による成果
コンペ開催の結果、主催者は多くの成果を得ることができたと語ります。
「新しいアプローチの発見、多様な手法の有効性の確認、学術界への貢献など、様々な成果がありました。特に、制約条件を緩く設定した状態からスタートし、徐々に制約を厳しくしていくというアプローチが、風車設計の最適化に有効であることがわかりました。このアプローチは、従来の積み上げ式の設計手法とは異なり、全体最適化を効率的に行うことができるという点で画期的でした。」
また、学術界への貢献についても言及しました。
「今回のコンペで作成された問題は、風車設計の最適化という現実的な問題を、ベンチマーク問題として学術界に提供するという点で大きな貢献を果たしました。この問題を通じて、多くの研究者が風車設計の最適化に取り組むようになり、関連分野の研究が大きく進展しました。」
コンペ主催者からのメッセージ
主催者は、今回のコンペ開催を通じて得られた経験を踏まえ、これからコンペを開催しようとしている人に向けて、以下のメッセージを送っています。
「事前準備の重要性、多様な手法の検討、学術界との連携の3点を特に強調したいと思います。最適化問題をコンペ形式で解くためには、問題の定式化、ツールの動作確認、評価指標の設計など、様々な事前準備が必要です。また、進化計算は強力なツールですが、問題によっては勾配法ベースの手法の方が有効な場合もあります。コンペの問題設定に応じて、最適なアルゴリズムを選定することが重要です。さらに、現実的な問題をコンペ形式で解くことは、学術界にとっても大きなメリットがあります。コンペを通じて、現実問題の解決に役立つ新しいアルゴリズムや理論が生まれる可能性があります。」